第三章 安全衛生管理体制
(総括安全衛生管理者)
第十条
事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。
一 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
二 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
三 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
四 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
五 前各号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの
「統括安全衛生管理者」は「安全管理者、衛生管理者、救護に関する措置について技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに一定の事項を統括管理させなければならない」と定められています。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者に関する記述である。事業者は、総括安全衛生管理者に、労働安全衛生法第28条の2第1項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関することを統括管理させなければならない。
【解答】
○
総括安全衛生管理者の主な職務は、
①労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること
②労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること
③健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること
④労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること
⑤その他、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの
この、⑤その他厚生労働省令で定めるもののなかに、「危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること」、「安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること」があります。
2 総括安全衛生管理者は、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者をもつて充てなければならない。
2項で、総括安全衛生管理者は、「当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者をもつて充てなければならない。 」と定められています。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者に関する記述である。総括安全衛生管理者は、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者又はこれに準ずる者をもって充てなければならない。
【解答】
X
総括安全衛生管理者は、「当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者をもつて充てなければならない。」ですので、「これに準ずる者」という規定はありません。
「これに準ずる者(統括管理する者又はこれに準ずる者)」との表現がある条文は、安全委員会又は衛生委員会の構成員(議長)に関する規定にあります。
(参考)
第17条2の1、第17条3、第18条2の1、第18条4、第19条2の1、第19条4
(安全委員会の構成員)安全委員会の委員は、次の者で構成されます。
(1)総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者もしくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名したもの(この委員は1名です。「議長」)
(2)・・・省略。(3)・・・省略。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法の安全衛生管理体制に関する記述である。常時120人の労働者を使用する清掃業の事業場の事業者は、総括安全衛生管理者を選任する義務があるが、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者であれば他に資格等を有していない場合であっても、その者を総括安全衛生管理者に選任し、当該事業場の労働災害を防止するため必要な業務を統括管理させることができる。
【解答】
○
100人以上で総括安全衛生管理者を選任しなければならない業種は建設業、鉱業、運送業、清掃業、林業で、前半の総括安全衛生管理者の選任規模はその通り正しいです。
労働安全衛生法施行令
第二条(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)
労働安全衛生法(以下「法」という。)第十条第一項の政令で定める規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。
一 林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業 百人
…
後半の資格要件についても総括安全衛生管理者は安全管理者等のような専門的知識に係る要件は設けられていませんので、正しいです。
総括安全衛生管理者はとにかくトップがなるということで事業所の責任者であればよく、講習免許などは一切不要です。
また、労働安全衛生法施行令第二条の「常時」に関して算定方法も少し覚えておきます。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理体制及び安全衛生教育に関する記述である。派遣中の労働者に関しての総括安全衛生管理者、衛生管理者、安全衛生推進者又は衛生推進者及び産業医の選任の義務並びに衛生委員会の設置の義務は、派遣先事業者のみに課せられており、当該事業場の規模の算定に当たっては、派遣先の事業場について、派遣中の労働者の数を含めて、常時使用する労働者の数を算出する。
【解答】
X
本肢の義務は派遣先と派遣元双方に課されている派遣労働者がいる事業場における使用労働者のカウントの方法を聞かれている設問です。
・派遣元において、派遣している労働者を含めて労働者数をカウント
→ 総括安全衛生管理者、衛生管理者、衛生委員会、産業医
・派遣先において、派遣労働者を含めて労働者数をカウント
→ 総括安全衛生管理者、安全衛生管理者、安全委員会、衛生管理者、衛生委員会、産業医
総括安全衛生管理者等の選任について「派遣先事業者のみに課せられており」とした点、事業場の規模の算定について「派遣先の事業場について、派遣中の労働者の数を含めて」とした点から、問題文は誤りです。
派遣労働者について適用される安全衛生管理体制の規定のうち、
安全管理に関するものについては、派遣先事業者のみに義務が課され、
衛生管理に関するものについては派遣先事業者及び派遣元事業者の双方に義務が課されています。(労働者派遣法45条1項・2項、労働者派遣令6条3項)
3 都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者に勧告することができる。
続いて3項で「安全衛生管理体制における行政の干渉」が書かれています。
<安全衛生管理体制における行政の干渉>
●総括安全衛生管理者、統括安全衛生責任者に関して
【都道府県労働局長】は業務執行について事業者に【勧告】することができる
●安全管理者、衛生管理者、元方安全衛生管理者に関して【労働基準監督署長】は事業者に対し、【増員または解任】を【命ずる】ことができる
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者に関する記述である。都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者にその改善を命令することができる。
【解答】
×
3項で「都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者に勧告(×改善の命令→○勧告)することができる。」と書かれています。
都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者に勧告することができるとされていますが、
「事業者にその改善を命令すること」ができるとは規定されていません。
そのため、問題文は誤りです。用語文言に注意します。
そして安全衛生法の最重要ポイントである山場の条文中「政令で定める規模の事業場ごとに」文言に関してです。
政令(労安法施行令第2条)で総括安全衛生管理者を選任すべき事業所の規模が決められています。
1.林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業→「屋外産業的業種」…常時100人以上、
100人以上は「林業」、「鉱業」、「建設業」、「運送業及び清掃業」ですが、
覚え方は「産業廃棄物処理場」をイメージします。
山林を切り開き(林業)、道路を建設し(建設業)、穴を堀り(鉱業)、土砂を運び出し(運送業)、産業ゴミを運び入れる(清掃業)。
ダンプや重機を使う事業ってイメージします。
2.製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業→「工業的業種(屋内産業的業種)」(ライフライン・製造・修理など)…常時300人以上、
※各種商品卸売業は300人以上
卸売、小売、旅館が「工業的業種」って違和感がありますが、重い商品や布団の運搬、上げ下げ作業で腰痛障害が起きやすいからとイメージします。
3.「その他の業種」…常時1000人以上
※八百屋など単品卸売業はその他になり1000人以上
個々の業種を覚えるのは大変ですが、確実に出題されますので、暗記必須ポイントです。
ざっくりまとめると「屋外産業的業種」常時100人以上、「工業的業種」常時300人以上、「その他業種」常時1000人以上です。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者に関する記述である。製造業に属する事業者は、総括安全衛生管理者を、常時100人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任しなければならない。
【解答】
×
「製造業に属する事業者は、総括安全衛生管理者を、常時300人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任しなければならない。」です。「常時100人以上」とした問題文は誤りです。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者又は安全管理者の選任に関する記述である。事業者は、常時250人の労働者を使用する自動車整備業の事業場においては、総括安全衛生管理者を選任しなければならない。
【解答】
×
「製造業に属する事業者は、総括安全衛生管理者を、常時300人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任しなければならない。」です。「常時250人以上」とした問題文は誤りです。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者又は安全管理者の選任に関する記述である。事業者は、常時350人の労働者を使用する各種商品小売業の事業場においては、総括安全衛生管理者を選任する必要はない。
【解答】
×
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者に関する記述である。製造業に属する事業者は、総括安全衛生管理者を、常時100人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任しなければならない。
【解答】
×
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者又は安全管理者の選任に関する記述である。事業者は、常時150人の労働者を使用する清掃業の事業場においては、総括安全衛生管理者を選任しなければならない。
【解答】
○
総括安全衛生管理者は、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者をもつて充てなければならない。
語呂合わせ
【林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業】
林鉱建さんの運勢(運・清)100点でサーセン(300,1000)
総括安全衛生管理者の選任は、すべての事業場で義務付けられているわけではなく、
①屋外産業的業種(林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業)においては、常時使用する労働者が100人以上
②屋内産業的工業的業種においては、常時使用する労働者が300人以上
③その他の業種においては、常時使用する労働者が1,000人以上
です。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者又は安全管理者の選任に関する記述である。事業者は、常時250人の労働者を使用する自動車整備業の事業場においては、総括安全衛生管理者を選任しなければならない。
【解答】
X
【試験問題】
使用労働者が、常用労働者40人、パート労働者60人の運送業の事業者は、総括安全衛生管理者を選任することを要しない。
【解答】
X
使用労働者が、常時100人以上(パート労働者等を含む。)である運送業の事業者は、総括安全衛生管理者を選任することを要する。(昭47.9.18基発602号)
【試験問題】
常時300人以上の労働者を使用する自動車整備業の事業者は総括安全衛生管理者を選任しなければならない。
【解答】
X
問題文の例の場合、総括安全衛生管理者を選任する義務はなく、「総括安全衛生管理者を選任しなければならない」とした問題文は、誤りです。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める総括安全衛生管理者に関する記述である。製造業に属する事業者は、総括安全衛生管理者を、常時100人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任しなければならない。
【解答】
X
そして、安全衛生管理体制についての理念的な難問というか条文から外れるため解きにくい問題です。
【試験問題】
次の説明は、労働安全衛生法に定める安全衛生管理体制等に関する記述である。労働安全衛生法においては、事業者は、「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関する業務」を統括管理しなければならない旨規定されているが、同法第10条の総括安全衛生管理者を選任し、その者に当該業務を行わせることとした場合にはその義務を免れることとされている。 【解答】
X
都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者に勧告することができます。
「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関する業務」は、経営者責任の一つと考えられているので、これが免除されることはありません。
これに限らず、経営者責任は、免除されるに足る合理的な理由ややむを得ない事情が無い限り、免除されることありません。
この考え方(法理法則)の基本が入っていれば、事業主の責任について、他の分野でも理解しやすくなります。
また、権限移譲は責任免除と同じでないという法理法則も働いています。
事業者は政令で定める規模の事業場ごとに総括安全衛生管理者を選任し、その者に労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関する業務について統括管理させなければならないとされていますが、問題文のような規定は存在しません。
ちなみに88条「計画の届出」につき、「則87条(労働安全衛生マネジメントシステム)を適切に実施している事業者は88条による計画の届出が免除される」という規定があり、これとの引っかけ問題が過去問出題歴があります。
こちらは簡潔に言えば、リスクアセスメント(28条の2に基づく危険性・有害性の事前調査)の結果に基づいて、自主的な労働安全衛生活動を実施している事業者(労働安全衛生マネジメントシステム)に対しては、88条における計画の届出を免除する、というものです。
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